


不動産コンサルタント
1960年東京生まれ。学習院大学経済学部卒。大手住宅メーカー、不動産コンサルティング会社などを経て、96年に不動産と相続のソリューション企業、財営コンサルティング(株)を設立、同社代表取締役。一般消費者向けから法人向けサービスまで幅広く対応。一級FP技能士(厚生労働省認定)、CFP(R)(NPO法人日本FP協会認定)。著書に『遺言書は書いてはいけない』『不動産でハッピーリッチになる方法』(いずれもダイヤモンド社)、『東京のどこに住むのが幸せか』(講談社)など多数。
財営コンサルティング公式HP:http://www.zaicon.co.jp/
--前回、資産価値の高い街の条件は賃料の高いエリアだという指摘がありましたが、具体的にはどのような街なのでしょうか。
山崎氏 エリート層が大都市に集中してくるというのは、歴史的な必然なんですね。江戸時代は中心都市にサムライが住んでいた。以来400年の歴史の中で円熟を増したのは、かつての武家屋敷があった場所です。古代から水害や地震といった自然災害の被害が起こりにくいエリア、つまり、千代田区や港区あたり。もっと具体的にいえば、麹町や広尾・麻布といった、現在の高級住宅街の原型になっている街です。
あるいは、もともとは農村だったエリアでも、松濤や代官山などのように昭和初期までに開発された近郊エリアも有望でしょう。最低でも80年前後以上の歴史があって、3世代に渡って成熟していることが条件です。渋谷区、目黒区、世田谷区、杉並区、大田区などにそのような優良住宅地はあります。

--やはり都心部とその西部周辺が中心ですね。
山崎氏 オフィス街に近い都心部でも、必ずしも資産価値が高くない街もあります。たとえばJR山手線の上野駅周辺などは、中古マンションの値下がり率が高い。資産価値を支える経済力のある層の需要が弱いということです。
つまり「現在の富裕層のニーズに合った職住近接が実現されている街」でなければいけない。時給に換算すれば何万円という収入を得ている富裕層にとっては、“時間が買える街”というのは絶対的な必須条件。IT化された巨大オフィス近いことに加えて、医療や教育施設も整い、24時間眠らず、グルメやエンターテイメントのスポットがあって癒しも得られることが不可欠なのです。
--確かにお金持ちが目を付ける街なら有望かもしれませんが、一般的なサラリーマンでは、なかなか手が出ませんね。
山崎氏 いや、それは『少ない予算で広くて夢のようなマイホームを買おうとする』からです。ぴかぴかのシステムキッチンに広々したリビング、子育てのために緑豊かな環境が欲しいという中堅所得層が、都心部で満足の行く広さのマンションを買うことは難しいでしょう。そういう人が自分の希望条件にこだわると、専有面積が100m²もある4000万円の新築マンションを郊外のニュータウンで買ってしまう。自分の欲望と心中するつもりなら、それでも構いません。
しかし、少なくとも資産価値を考えるなら、仮に広さは60m²前後に減っても、都心近郊で同じ価格の中古マンションを買ったほうがリスクは確実に少なくなりますよ。
--郊外のニュータウンでも、住環境が整っていて、ショッピングセンターなどが充実している暮らしやすい街はあると思うのですが・・・
山崎氏 開発の初期段階の街は、一見すると前途洋々として将来性があるように見えます。鉄道が開通して利便性が増し、街としての機能が整うにつれて、住宅分譲も進み、子育て期の一次取得層が大挙して入居する。だいたい同世代の地方出身者が多いですよね。
しかし、街の活気は長くは続きません。住民の高齢化が進んで、若年層が流出してゴーストタウン化の危機が指摘される。東京の多摩ニュータウンや大阪の千里ニュータウンの例を挙げるまでもないでしょう。
短期間で大規模な都市が形成されたニュータウンほど、その後の街の衰退が著しいという傾向があるのです。というのも、ニュータウンは非常にいびつな人口ピラミッドを構成しているからです(図1参照)。

--成熟した先進国では「釣り鐘型」と言われますね。

山崎氏 ニュータウンの初期の頃は、子育てファミリー層が集中しています。35歳前後の親と5才前後の子どもの部分が膨らんでいるから、極端にいえば「瓢箪型」になっているんですよ。20年たつと、子どもたちは結婚や就職で独立していく。 親世代ばかりになった街は、消費力が落ちてスーパーなどが見切りをつけて撤退していきます。さらに10年たって子どもが結婚しても、魅力の薄れた郊外には戻ってきません。人口ピラミッドは、リタイアした高齢世代だけが残る「キノコ雲型」になってしまうわけです。このまま行くと、雲は霞と消える・・・。
--街が消滅してしまうんですか。
山崎氏 物理的には残っても経済的価値は消滅する危険はありますね。街が死なないためには、賃貸住宅を作って人々を呼び込まないといけないんです。最近のニュータウンでも焦って賃貸住宅を作っているでしょう。ただ、多様な世代が自然に集まる賃貸マーケットが育たなければ街は成熟しません。無理矢理、税金を投入して箱物を作ってもニーズはついてこない。
湾岸部の再開発エリアも、歴史が浅くて、短期間に形成されたという点で、ニュータウンと同じ危うさがありますね。埋立地ならではの地盤の問題や土壌汚染の問題もある。先が読めないだけに、高額な新築マンションを買うことはリスクがあると思います。
--そうすると、中堅所得層でも買えそうな手頃な価格帯で、資産価値のある街はないのでしょうか。
山崎氏 そんなことはありません。たとえば、都心部や近郊の高級住宅地は無理でも、その周辺に広がる下町エリアに目を向けてみると意外に有望な街が見えてきます。
東京の下町は大きく2つの系統に分かれます。1つは明治期から大正期にかけて工業化が進んだ利根川水系の荒川、隅田川、江戸川周辺エリア。大規模な工場とその下請け系の工場が多い。もう一つが、昭和期に起源を持つ多摩川水系周辺エリアです。山の手の丘陵地の間を縫うよう広がり、大田区の町工場に代表されるように技術力のある中小企業が集積している場合もある。

前者の利根川水系はゼロメートル地帯といわれたように自然環境としても安定していないうえに、親会社の工場移転で一気に街の活気が無くなる恐れがあります。一方、後者の多摩川周辺エリアは、下町情緒の香る商店街が生き残り、ホワイトカラーとブルーカラーが適度に混じり合っている。工場移転もありますが、徐々にしか変化しません。交通網も充実していますね。東急電鉄を中心に網の目のように鉄道ネットワークが出来ています。
統計的にも、たとえば東急目黒線の武蔵小山は、中古マンションの価格の減価率が都心部や高級住宅地と同じくらい低めになっています。これらの東急沿線はお勧めできると思いますね(図2参照)。
--同じ下町でも、資産価値という点ではまるで違うんですね。

そう「洗練されていく下町=明るい下町」と「寂れ行く下町=暗い下町」があるんですよ。天国と地獄に分かれている。先日、城東地区の「シャッター通り」と化したある下町を見に行ったら、ひどい状況でしたね。
前回、不動産価格もグローバルな競争にさらされているといいましたが、今や東京都心の麻布や広尾の不動産は、オイルマネーやファンドがニューヨークやパリの動きと比較して語っている。一方、「暗い下町」や衰退する郊外のニュータウンは、いわばアフリカの地方都市と競合している状況といっていいんじゃないでしょうか。
(次回は、街選びから物件選びに進みます。乞うご期待!)

